水の部屋、世界の窓

水の部屋、世界の窓

2019/水道管、蛇口×8個、デジタル映像×6面(長さは20分、34分、58分の3種類でループする)、プロジェクター×6台、HD再生機×4台、分配器×3台、ネットワークハブ、ケーブル数m  第7回札幌500m美術館賞入選展(1月26日〜3月27日)

制作協力 3KG、プリズム、ユニプラス、クリアプロダクト、池田工機、ボランティアスタッフ

リュミエール歴によれば、1895年12月28日に映画が誕生した。 人々はこのときから、過去を具体的な事象として見ることのできる、意識の時間的な拡大を獲得した。またダイレクトに世界を認識できる空間的な拡大を得ることになる。情報化時代といわれて数十年が過ぎたが、実は1895年のこの時から、世界は情報化時代が始まっていたのだ。 このことを改めて振り返りつつ、ポスト情報化時代をどのように考えていこうかと、イメージをふくらませた時、アートや文化の役割として日常からの視点を取り戻したいと思うようになった。 2018年9月に、私たちは大きな地震を体験し、停電と断水など、ごく当たり前に享受していたものを失う経験をした。蛇口をひねれば常に水が出、メディアを操作すれば常に情報がえられると思っていた。その小さな日常の外は、台風が吹き荒れていた。 26年ぶりに制作活動を再開させた私は、ずっと昔に台風の時に、当時住んでいたアパートの台所の窓から、風に揺れ動く木々を撮っていた。その8ミリフィルムを思い出し、これをデジタルに変換し、3つの速度に変容させてみることにした。そして、実際の水道管と蛇口のオブジェを組み合わせることによって、小さな日常から、世界をどのように見ていくか、多様な視点から考えてvみたいと思った。 しかし、制作を始めた頃、日本は水道民営化の方向へ舵を切り、世界とは逆方向へ走り出した。水がこれからの人類に大きな課題になり、私は混乱している。 この水道管は、情報のように世界のあらゆるところとつながっているように見えるが、本当につながっているのだろうか。

約20mの展示スペースが2つあり、水道管は床面より少し上をずっと設置してあり、水道管が展示スペースを越えてずっとつながっているイメージになっている。その上に3面×2=6面に、8ミリフィルムを速度を変えてデジタルに変換した映像が、6台のプロジェクターから投影されている。その6面の間、計8箇所に水道管から立ち上がった蛇口が8個、設置されている。構造的には横に張り巡らされた水道管は地中であり、その上に我々が日常使っている水道の蛇口があることをイメージしている。映像はその蛇口のある台所の窓から見える世界でもある。 なお、元になる8ミリフィルムは、台風のときに撮影しており、樹々の激しい揺れで、太陽の光が出ると画面が暗くなり、樹に隠れると明るくなり台所の蛇口が見えるという8ミリカメラの自動露出を逆に活用した映像です。

審査員評

 

1972年に撮った日常の映像とオブジェとしての水道管を結びつけているのが新鮮で、日常に対する鋭敏な感覚と想像力が作品に現れている。作品制作を再開し、新たな表現の可能性の探求を決断した態度が、これからの社会を生きていくことを考えるうえで、若いアーティストに対しても大変参考になるのではないか。また、カメラという媒体をとても意識しているのが興味深い。

— 服部浩之(秋田公立美術大学大学院准教授/ アートラボあいちディレクター )

懐かしい8ミリフィルムというメディアの質感が逆に新鮮で、かつての表現の積み重ねが時を隔て熟成して出てきているところが大変興味深かった。新たに制作をはじめて日は浅いが、これからの展開を期待させてくれるものではないか。

吉崎元章(札幌文化芸術交流センター SCATSプログラムディレクター)

長年にわたり数多くの映像表現を紹介してきた年月が、自身の豊かな表現として素直に出ていると感じた。スキルというよりも、人間としての思考や熟成が新たな表現につながることの証明ともいえるだろう。

— 三橋純予(北海道教育大学岩見沢校 美術文化専攻教授)

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