死者の唄 水の声

死者の唄 水の声

2023

2023年1月28日~3月12日
札幌美術展「昨日の名残 明日の気配」
札幌芸術の森美術館

 

ビデオインスタレーション
デジタル映像(8ミリフィルムからの変換含む)、プロジェクター、特製スクリーン、土、水、水道管蛇口、水槽

 

製作協力:
丸田知明、中野均、青木隆夫、小笠原将士、橋場綾子、川田英之、新保健次、吉岡宏高、大越  ユニプラス、夕張市石炭博物館、

 

2018年に作品制作を再開した私は、関心を持ち続けていた、水、水道管、記憶、メディアといった題材を中心に制作してきました。その過程で「私たちは水の声を聞くことができているのか」と問い、「死者と新しく出会い直す」ことを学んできました。そして「センス・オブ・ワンダー(神秘や不思議さに目をみはる感性)」にも、出会い直すことになったのです。

 

「昨日の名残 明日の気配」図録から

 中島洋は、大学進学を機に北海道に渡り、以後現在に至るまで札幌を中心に活動してきた。大学在学中に映画研究会に所属し、映像作品の制作を始める。飲食店の経営や、イベントスペース「駅裏8号倉庫」の共同運営、その後映像ギャラリー「イメージ・ガレリオ」の運営など文化を生み出す場づくりを手掛けながら、映像を中心に意欲的に作品の制作・発表を続けてきた。1992年に映画館「シアターキノ」を設立後は運営に専念するため、自らの作品制作は休止していたが、2018年から再開した。

《死者の唄 水の声》は、壁面の表裏に投影される2編の映像を中心に、蛇口や水道管、夕張の炭鉱住宅跡の土等が配された、映像インスタレーションである。一方の映像は、約8分。駆け回ったり、遊具で遊んだりする子どもたちを中心とした、市井の人々の何気ない日常生活の一部が、それぞれ数秒程度のカットで構成される。一部、映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟の作品からの引用が差し挟まれている。中盤と終盤には、栄えていた1960年の夕張炭鉱の風景が、夕張市が財政再建団体となった後の2020年に同地点から撮影した風景とオーバーラップする。対するもう一方の面は、林立する水道管と蛇口が映し出される約40分の映像である。一見静止画のようにも思われるが、至極ゆっくりとした雲の動きから、紛れもなく映像であることが分かる。蛇口からすぐさま連想される水は、一向に出てくる気配はない。

 明確なストーリーが紡がれているわけではない。人々の営み、夕張の風景、太古から息づく土、風化した蛇口、本作を構成する要素は、過去のものだ。にもかかわらず、これらの集積である本作は過去を懐古するというより、むしろこの先の未来を思わせる。それは、これらの要素が、変化しながら積み重なっていく歴史を示唆するからであろう。過去を経由した今という現在地が、ゆるやかに、時に急に変化する大きな流れのなかの一地点であることを改めて認識させ、さらにその先を想像させる。

中島は「蛇口は文明のメタファー」と語る。治水と利水は文明の発達に多大な影響をもたらした。現代においては、蛇口をひねれば当たり前に出てくる水と同様に、端末を開けば当たり前に情報にアクセスできる。近年のパンデミックによって、それまでの「当たり前」は大きく揺らいだ。街の、水の、映画の、文明の、技術の、そして人々の歴史。それらが重層的に交感し合い、水の出ない蛇口は変わり続ける「当たり前」を静かに意識させる。

Next
Next

Wakkaー2023